『クッキング・ママの超推理』ダイアン・デヴィットソン

今回紹介する本は、『クッキング・ママの超推理』ダイアン・デヴィットソン著 です。
「料理」×「ミステリー」は、殺人事件と美味しそうなレシピが共存する、ちょっとユニークなジャンルです。

あらすじ

主人公のゴルディはケータリング業を営む料理人。

彼女が手掛けるのは、イギリスから移築された本物の城で開催される「エリザベス朝の祝宴」。
一見、華やかで夢のような仕事に思えるが、物語は意外な方向へと進む。

まず、自宅の窓ガラスが何者かに銃撃されるという不穏な出来事が起こる。
夫のトムは逃亡犯の捜査に追われ、家には不安が募るばかり。
そして、ようやくケータリングの仕事に向かうと、今度は死体を発見することに——しかも、その顔には見覚えがあった…。

料理ミステリーの醍醐味

本シリーズの大きな魅力のひとつが、「ケータリング」という仕事のリアルな描写です。
依頼された料理を準備し、イベント会場で提供するまでの過程が丁寧に描かれており、まるで自分もシェフになったかのような気分になります。

作中では、実際のレシピが紹介されていて、主人公であるゴルデイが料理するシーンが描かれます。これは料理好きの読者にはたまらない魅力です。

物語中で偶然生まれたレシピのセンスが光ります。

スコットランド女王のショートブレッド

デザートにはなにか歴史にまつわる料理を作ったらどうだろう。エリザベス朝といえばマジパンだけれど、今は作るつもりはなかった。
少し考えて、サクサクのクッキーの方はショートブレッドに決めた。名前は、エリザベス女王の北国のライバルからもらおう。

コール911クッキー

こってりのほうはチョコレート・クッキーにしよう。濃厚なチョコレートのエッセンスがたっぷり含まれていて、ブラウニーのようなしっとりした舌触り。
まさかのときのチョコレート。わたしはいま、その”まさかのとき”のど真ん中。

イギリスの城がそびえ立つ広大な屋敷にあるチャペルで、昼食会が開かれます。

城の主であるエリオットは、この歴史的建造物を最大限に生かしたカンファレンスセンターを立ち上げる準備を進めています。
その第一歩として、大規模な食事会を開催することになりました。

この事業の立ち上げに伴い、大口の寄付者たちが集う「英国びいきのランチ」、
「エリザベス朝の祝宴」、さらにエリオットが顧問を務めるフェンシングチームのシーズン終了を祝う宴会が予定されています。

主人公のゴルディは、その責任重大なケータリングの仕事を引き受けましたが、
さまざまな困難が待ち受けています。

ミステリー要素だけでなく、彼女の仕事ぶりにも、読者ははらはらさせられるかもしれません。

まず、ケータリングの仕事では、顧客ごとの要望に細かく対応する必要があります。
イギリスの城を所有するエリオットの要望は並大抵のものではなく、「エリザベス朝の祝宴」を忠実に再現した料理を提供しなければなりません。

さらに、テスト料理として子牛のローストを提案しましたが、ガチガチのカトリック信者は金曜日に肉を食べないという制約がありました。
不特定多数の人に料理を提供するケータリング業務が、いかに調整の難しい仕事かがよくわかります。

また、大きな課題となるのが移動とセッティングの手間です。
物語の舞台はコロラドで、冬になると雪が積もる地域です。
ゴルディは自家用バンで城へ向かいますが、打ち合わせの時間に間に合うように、タイヤで雪道に轍を刻みながら慎重に運転していきます。

慣れない城への道のりは、まるで獣道のようでした。

ヴァンが突然大きな石に乗り上げたので、慎重に運転なさいと自分を戒めた。さもないと、”あまり見栄えのしない”風景の一部になりかねないのもの。

序盤からケータリングの仕事の過酷さが伝わってきますが、主人公ゴルディの明るい性格のおかげで、気楽に読み進めることができました。

20年前のテクノロジーが光る?

本作は2000年代初頭に出版されたミステリーのため、今読むと当時ならではの面白いポイントがいくつか見えてきます。

例えば、古典ミステリーでよくある「謎の手紙」が、「謎の電子メール」といった形で描かれています。
これ自体は現代と大きく変わらないかもしれませんが、作中では「電子メールのヘビーユーザー」というような表現が使われており、これが2000年代らしさを感じさせます。

これは、郡警察に勤めるゴルディの夫が、とある事件の重要人物との会話を回想するシーンでも表れています。

あいつは電子メールが大好きだった。差出人の住所を書いていない手紙をおれによこし、こうこうこういう手順で新しい電子メールのアドレスをもらい、メールのやりとりは必ず自宅のコンピューターでやれって言ってきた。

2000年代初頭、日本でもインターネットや電子メールの普及が急速に進んでいましたが、当時の利用者層には偏りがあったという統計があります。
例えば、2000年時点でのインターネット利用者数は約1,633万人で、人口に占める割合はわずか13.6%でした。
今と比べると意外に少なく、当時の状況を振り返ると驚かされます。

さらに、今では懐かしいフロッピーディスクという旧式の記録媒体も登場します。


主人公のゴルディは、ケータリングを利用する顧客ごとに最適なサービスを提供するため、徹底的に情報を収集します。
その熱意は時に過剰とも思えるほどで、彼女が丹念に集めたレシピ群は、すべてフロッピーディスクに保存されているのです。

フロッピーディスクがチューダー王朝のレシピをはきだしているあいだ、わたしの思いはマイケロとエリオットのけんかへと向かっていた。
スクリーンの上の文字がかすむ。ヘンリー六世が亡くなる五年前のパプテスマのヨハネの祭日で供されたのは、鹿肉のパイ…。

最新のIT技術が登場する物語とは異なり、本作にはこの時代ならではのアナログ感があり、それがかえって新鮮に感じられるかもしれません。
また、事前にしっかりと下調べをして情報をまとめている主人公の姿勢からは、彼女の仕事熱心さと勉強家としての一面が伝わり、思わず感心してしまいます。

まとめ

『クッキング・ママの超推理』は、料理とミステリーを味わえる一冊。

・料理が好きな人
・ミステリーが好きな人
・レトロなガジェットが登場する作品が好きな人

方におすすめです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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