『ヒッコリー・ロードの殺人』      アガサ・クリスティー

今回紹介する本は、 アガサ・クリスティーの『ヒッコリー・ロードの殺人』です。

あらすじ

名探偵ポアロが登場する作品ですが、いつものような派手な事件や複雑なトリックではなく、“盗まれた小物”から物語ははじまります。

舞台は、ロンドンにある学生向けの下宿屋。
ハンガー、電球、靴下、指輪……ちょっとした物が、ぽつぽつと消えていく。
はじめはイタズラのように見えたその事件が、やがて命を奪う出来事へとつながっていきます。

この作品の魅力は、登場人物たちのささやかな生活の中に、違和感がじわじわと広がっていくところ。
誰もが何かを隠していて、誰もが“犯人ではないようで、少し怪しい。
読んでいるこちらも、どこか下宿屋の一角にいるような気分になります。

登場人物は学生や若者が中心で、当時の時代背景──冷戦下の空気や政治的な思想なども、さりげなく盛り込まれています。
暮らしの中に入り込むミステリー、そして思いもよらない動機。
派手さはないけれど、静かに、でもしっかりと読者を引き込んでくる一冊。

本を閉じたあと、ふと「日常のなかの小さな違和感」に目が向いてしまうかもしれません。

今回はブログとしてこんな構成に

事件の始まりは、小さな“いたずら”のようなものでした。
学生寮ヒッコリー・ロードで起きた、日用品のちょっとした紛失――口紅、指輪、ハサミ、試薬。
けれどそのささやかな波紋は、やがて死を伴う騒動へと姿を変えていきます。

本作は、そんな不可解な日常の裏側に潜む謎を、静かに、そして鋭く描いていく一冊。登場するのは、寮に暮らす若者たちと、彼らの言葉の裏を読み取っていく警視庁のシャープ警部。

本記事では、シャープ警部による聞き取り調査が始まる前段階――
すでに読者に示されている3つの出来事(=伏線)を整理しながら、
それぞれの証言と態度から何が見えてくるのかを読み解いていきます。

登場人物一覧

ハイライトのついた人物がシャープ警視が取り調べを行った人物。
※ ジェヌヴィーヴ・マリコード のみ取り調べの描写が省かれていた…。

エルキュール・ポアロ … 探偵
レモン嬢 … ポアロの秘書
L・ハバード … レモン嬢の妹、未亡人、ヒッコリー通りの寮母
ニコレティス夫人 … 寮の経営者
ジェロニモ … 寮の小使、イタリア人
マリア … 寮のコック、ジェロニモの妻


ニージェル・チャップマン … 寮生、歴史学専攻の学生
レオナード・ベイトソン(レン) … 寮生、医学生
コリン・マックナブ … 寮生、心理学専攻の学生
サリー・フィンチ … 寮生、フルブライト女子留学生
ヴァレリ・ホップハウス … 寮生、服飾品のバイヤー
パトリシア・レイン … 寮生、考古学専攻の女子学生
エリザベス・ジョンストン … 寮生、ジャマイカからの女子留学生
ジェヌヴィーヴ・マリコード … 寮生、フランス人の女子留学生
ジーン・トムリンソンズ … 寮生、物理療法専攻の女子医学生
アキボンボ … 寮生、西アフリカ人の留学生


セリア・オースティン … 薬剤師
シャープ警視 … ロンドン警視庁の警視

本記事の前提となる3つのポイント

ヒッコリー・ロード学生寮にて、数週間にわたる連続小物盗難事件が発生。

事件に関心を持った私立探偵ポアロ氏の関与により、セリア・オースティンによる一部の犯行が自白されるも、後に謎のモルヒネ中毒死体として発見される。
警察は事件の全容解明に向け、寮生および関係者の取り調べを開始。

ざっくりポイントをまとめるとこんな感じです。

ポアロはため息をついた。

「会って話すことですよ。会談に会談を重ねることです。わたしの経験では、殺人犯人は全部、話ずきですな。むっつりしてちっとも話をしない男は、めったに犯罪はしでかしません。たとえやったとしても、ごく単純で、お粗末で、見え透いたことしかしません。

ところが、頭のいい、巧妙な殺人犯人になると、自己陶酔的なところがあって、遅かれ早かれ、面白がって喋っているうちに致命的なことを漏らし、自ら墓穴を掘るようなことになってしまうものなんですよ。~略 」

『ヒッコリー・ロードの殺人』 本編より引用

このポアロの金言が、ロンドン警視庁のシャープ警視を奮い立たせます。

シャープ警視は、寮の住人一人ひとりに丁寧に話を聞きながら、言葉の端々に表れる矛盾や感情の動きを見逃さずに捜査を進めていきます。
そうした静かなやりとりの中で見えてきた証言や態度に注目しました。

寮の住人たちの証言 〜ロンドン警視庁 取調調書より〜

ここでは記録された「架空の取調調書」をもとに、彼らの証言と人物像を整理します。
言葉に表れた本音と建前、その間に滲む感情や背景に注目しながら、事件の輪郭を少しずつ明らかに。

加害者として疑いの目が向けられる寮の住人たち──わずか十数名の登場人物に、ひとりひとり異なる性格や背景、思想を与え、さらにその誰もが「犯人かもしれない」と思わせる説得力を持って描き出す。

この構成力こそ、アガサ・クリスティという作家の筆の冴えであり、群像劇としての完成度の高さを物語っています。

まとめ

寮で起こったセリアの窃盗にはじまる数々の小さな事件は、決して大げさな出来事ではありません。
しかし、日常の延長にありそうな“ちょっとした不穏”から始まるこの物語に、当時のイギリスの読者は、むしろ身近なリアリティを感じたのではないでしょうか。
「自分の周囲にも、似たような人間関係があるかもしれない」と、どこかぞっとするような共感を覚えたのでは――そんな気がします。

とはいえ、さまざまなミステリを読んできた読者にとっては、肩ひじ張らず、部屋でお茶でも飲みながら、心に波風立てずに読了できる一冊かもしれません。
(ちょっと呑気すぎるかもしれませんが、そこも含めて魅力です。笑)

最後までお読みいただきありがとうございました。


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