
今回紹介する本は、アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』です。
ABC殺人事件は、エルキュール・ポアロが活躍する長編小説。
1930年代中期の作品で、連続殺人ミステリの代表作として知られています。
本記事では、作品の位置づけや独特な構成、重要なポイントとなる「ミッシング・リンク」を中心に解説します。
ミステリ初心者が名作から読み始めたい場合や、少し変わった趣向のクリスティ作品を楽しみたい方に向いた一冊。
クリスティー中期の代表作としての位置づけ
ABC殺人事件(1936年)は、アガサ・クリスティー18作目の長編推理小説です。
『オリエント急行の殺人』(1934年)や『そして誰もいなくなった』(1939年)に挟まれた、いわゆる黄金期の代表作と位置づけられています。

とくに「ミッシング・リンク」を主題とした作品群の中でも評価が高く、読者・評論家の双方から支持を集めました。
クリスティー・ファンの間では、『アクロイド殺し』と並ぶ“四大傑作”の一つに数えられることも多く、ミステリ史上の重要作とされています。
A→B→C…連続殺人事件の構造と読みどころ
物語は、エルキュール・ポアロのもとに届く、不気味な予告状から始まります。
差出人は「ABC」を名乗り、日時と地名を指定して犯行を予告します。

最初の事件は、Aで始まる町で、頭文字Aの被害者が殺害され、現場には『ABC鉄道案内』が残されていました。
その後も予告どおり、B、Cとアルファベット順に事件は続き、犯人は秩序立てて人を殺しているかのように見えます。
作中で描かれる「ミッシング・リンク」とは?
本作を語るうえで重要なのが「ミッシング・リンク」です。
これは連続殺人事件において、被害者同士の間に見えにくい隠れた共通点を指す言葉です。
一見無関係に見える被害者が、なぜ狙われたのかという謎の核心になります。
『ABC殺人事件』は、このテーマを用いた代表的な作品とされています。
物語前半では、A〜Cの被害者に明確な共通点は見えず、警察は無差別的な連続殺人と判断します。
しかしエルキュール・ポアロは、犯行の背後には必ず論理があると考え、事件を追います。
そして見抜かれるのが、この事件における「ミッシング・リンク」です。
アルファベット順の連続殺人は偽装にすぎず、実際には明確な動機を持つ一件の殺人が隠されていた――そこが本作『ABC殺人事件』の核心です。
まとめ
ABC殺人事件は、クリスティー中期を代表する実験性の高い作品という印象を受けます。
アルファベット順連続殺人という派手な仕掛けは、読者の視線を意図的に誘導するための装置であり、物語は人物心理よりも構造そのものの美しさに重点が置かれています。
そのため、動機は現実的というよりもややメタ視点寄りで、論理トリックを成立させるための最小限のものに感じられます。
一方で、文章や文脈の中にさりげなくヒントを埋め込む手腕は非常に巧みで、読み返すことで構造の完成度に気づかされる一作です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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