シャーロック・ホームズ             短編作品の分析

今回紹介する本は、『シャーロック・ホームズ全集 全1巻』です。


事件を分析するとき、以下の2つの要素を大きなポイントとしました。

※ 作品の傾向がやや分かる内容になっていますが、ネタバレには配慮しています。ご了承ください。

■犯人の知的レベル(単純 ⇔ 高度)

犯罪が単純な動機によるものか、それとも複雑な計画があるのか。

■手掛かりの多さ(少ない ⇔ 多い)

事件の序盤で明らかになっている情報の量。手掛かりが豊富な事件もあれば、ほとんど情報がない事件もある。

まずは、短編12作品のあらすじをざっくりとまとめました。

  1. ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)

あらすじ
ボヘミア王がホームズの元を訪れ、ある女性に関する問題を相談する。
王の秘密を守るため、ホームズは知恵を絞って問題解決に挑むが、意外な展開が待っていた。

最初の手掛かり
・王が持参した一枚の写真
・アイリーン・アドラーの行動パターン

犯人の知的レベル: ★★★★★(完璧なアドリブ力)

  1. 赤毛組合(The Red-Headed League)

あらすじ
赤毛の男性だけが参加できるという謎の「赤毛組合」。
ある男が奇妙な仕事を得るが、突然組合が解散してしまう。不可解な出来事の裏に、ホームズは隠された意図を見抜く。

最初の手掛かり
・「赤毛組合」という奇妙な求人広告
・消えた組合の事務所

犯人の知的レベル: ★★★★☆(巧妙な犯罪計画)

  1. 花婿の正体(A Case of Identity)

あらすじ
婚約者が結婚式の直前に姿を消したと嘆く女性。
ホームズは彼女の話を聞き、意外な事実にたどり着く。

最初の手掛かり
・婚約者から送られた手紙
・婚約者の奇妙な行動

犯人の知的レベル: ★★★☆☆(実行は巧妙、単純すぎる点あり)

  1. ボスコム谷の惨劇(The Boscombe Valley Mystery)

あらすじ
ある谷で起きた殺人事件。息子が容疑者とされるが、彼の証言には不可解な点が多い。
ホームズは現場の痕跡を分析し、真相を探る。

最初の手掛かり
・現場に残された足跡
・被害者の最後の言葉

犯人の知的レベル: ★★★☆☆(隠蔽工作に難あり)

  1. 五つのオレンジの種(The Five Orange Pips)

あらすじ
一族に届く謎の「五つのオレンジの種」。これを受け取った者が次々と不審な死を遂げていく。
ホームズは恐ろしい陰謀の存在を突き止めようとする。

最初の手掛かり
・郵送されてきたオレンジの種
・被害者たちの過去

犯人の知的レベル: ★★★★☆(証拠に十分配慮)

  1. ねじれた唇(The Man with the Twisted Lip)

あらすじ
夫がある場所で目撃されたのを最後に、行方不明となる。
妻の証言と、現場にいた謎の男の関係を調べるうちに、ホームズは驚くべき事実にたどり着く。

最初の手掛かり
・消えた夫の最後の目撃証言
・現場にいた「ねじれた唇」の男

犯人の知的レベル: ★★★★☆(発想が独創的)

  1. 青い紅玉(The Adventure of the Blue Carbuncle)

あらすじ
クリスマスの夜、ある紳士が落とした七面鳥が、思わぬ事件の発端となる。
ホームズはその謎を追い、意外な真相にたどり着く。

最初の手掛かり
・七面鳥の中にあった宝石
・宝石を盗まれた被害者の証言

犯人の知的レベル: ★★☆☆☆(衝動的)

  1. まだらの紐(The Adventure of the Speckled Band)

あらすじ
若い女性が、姉が亡くなる直前に聞いたという「奇妙な音」に怯えてホームズを訪れる。
彼女も同じ運命をたどるのではないかと不安を抱えていた。

最初の手掛かり
・亡くなった姉が最後に言い残した言葉
・屋敷の構造と奇妙な換気口

犯人の知的レベル: ★★★★★(密室トリック)

  1. 技師の親指(The Adventure of the Engineer’s Thumb)

あらすじ
ある技師が奇妙な仕事を依頼され、危うく命を落としかける。
彼は逃げ出すことに成功したが、右手の親指を切断されていた。

最初の手掛かり
・依頼人が語る奇妙な仕事内容
・技師の親指が切断された理由

犯人の知的レベル: ★★★★☆(大胆な計画)

  1. 独身の貴族(花婿失踪事件)(The Adventure of the Noble Bachelor)

あらすじ
結婚式の最中に突然姿を消した花嫁。
貴族の夫がホームズに助けを求めるが、調査を進めると、ある事実が明らかになる。

最初の手掛かり
・花嫁が失踪する直前の行動
・式の参列者が目撃した花嫁の最後の様子

犯人の知的レベル: ★★★★☆(計画的な行動が見受けられた)

  1. 緑柱石の宝冠(The Adventure of the Copper Beeches)

    あらすじ
    銀行家が借り受けた王冠の一部が盗まれる。
    彼の息子が疑われるが、証拠は不完全。ホームズは盗難の謎を解明し、真犯人を突き止める。

最初の手掛かり
・壊れた王冠
・屋敷にいた人々の証言

犯人の知的レベル: ★★★☆☆(粗があるが計画的)

  1. ぶな屋敷(The Adventure of the Beryl Coronet)

あらすじ
家庭教師の仕事を得た女性が、雇い主の奇妙な指示に不安を抱く。
彼女はホームズに相談し、調査が始まる。

最初の手掛かり
・雇い主の不可解な要求(髪を短くするなど)
・特定の部屋で毎日特定の時間に過ごすよう強制される

犯人の知的レベル: ★★★★☆(長期的な計画があったと思われる)

最初はシンプルに感じた事件が、次第に複雑になっていくことがあります。またその逆も然り。
単なる偶然かと思いきや、巧妙に設計されたプロットに仕掛けがあるのかもしれません。
ホームズ短編の序盤と中盤での特徴の変化を分布図でまとめてみます。

序盤から中盤にさしかかるにつれて、少し変化します。

「手掛かりの多さ」

序盤から中盤にかけて、「手掛かりの多さ」の変化を見ていきます。

手掛かりが少なかったものが増えるケース

以下の作品では、序盤では事件の概要しか見えず、情報が限定的な状態から物語が進むにつれ新たな証拠や目撃証言が出てきて解決の糸口が増えていきます。

五つのオレンジの種
ねじれた唇
まだらの紐

これらの作品では、事件の背後に組織的な犯行や隠された背景があり、手掛かりが次第に明らかになっていく特徴があります。
この手掛かりの変化が大きいほど、終盤で予想外のスケールへと展開することが多い印象です。

手掛かりが多かったものが減るケース

一方で、先ほどとは逆の場合です。
序盤では多くの情報が提示されていたものの、捜査が進むにつれて「最初に見えた手掛かりが実は誤誘導だった」ことが判明し、事件の本質が隠されているケースもあります。

青い紅玉
ボスコム谷の惨劇
ぶな屋敷

これらの事件は、最初は単純に思えるが、後から隠れた動機や誤った情報が明らかになり、逆に手掛かりが減っていく展開を見せます。
また、最初に提示された手掛かりが実は事件と無関係であることもあり、推理が進むにつれて状況が変化していく、動的な推理の過程を描いている作品が多いのかもしれません。

「手掛かりの多さ」に変化なし

事件の複雑さは、最初の印象と大きく変わらず、一貫したレベルを保っています。犯行の動機が特徴的か特異なモチーフが主体となった作品が多い印象です。

「犯人の知的レベル」

序盤から中盤にかけて、「犯人の知的レベル」にも若干の変化が見られます。
しかし、全体的に手掛かりの多さのような、大きな変化はありませんでした。

■ 知的レベルがやや上がったケース

五つのオレンジの種
ぶな屋敷

序盤では単純な脅迫や連続殺人のように見えたが、実は背景により高度な計画があった。
シンプルに見せかける犯行が実は組織的で、証拠を残さない工夫がされている。

■ 知的レベルがやや下がったケース

緑柱石の宝冠
ボスコム谷の惨劇

最初のインパクトで巧妙な犯罪に見えたが、実際にはシンプルな動機や計画だった。
事件の展開が進むにつれ、「大掛かりな犯罪ではなく、個人的な事情や偶発的な要素が多かった」ことが明らかになる。
実は計画性がないことが判明し、犯人の知的レベルが下がっていく。

■ 「犯人の知的レベル」変化なしのケース

多くの事件は序盤の印象と変わらず、一貫したレベルを保っていました。(個人的には以外な結果に…!!)

まとめ

完全に個人的な見解ではありますが、このような分析をしてみるとドイルの作品への見方が変わるかもしれません。

短編12編のうち、読者の予想を裏切るよう意図的に落差をつけた作品が約6割を占めており、残りの4割も独創的なモチーフを取り入れることで、飽きさせない工夫が随所に凝らされているとあらためて感じました。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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